第135章

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    暂且不提在胧车上式神们的暗涛汹涌, 在晴明面前那些唇枪舌剑已是收敛了许多。

    晴明带着他们回到了庭院, 夜叉在见到像是长在晴明手腕上的般若又是一顿嘲讽。般若才不管呢, 他用那张可爱的脸故意朝夜叉吐了吐舌头,粘得晴明更紧了。

    晴明呼了口气, 这么道:“般若,你先放开我,我还有事情要做。”

    般若嘟了嘟嘴, 不情不愿地将晴明的手臂放了开来:“那好吧, 不过晴明大人!晚餐的时候我想坐在你的旁边,可不可以呀?毕竟人家真的好想晴明大人你啊!”

    般若蜜色的眼瞳中漾开水光明媚的请求, 几乎让人难以拒绝。

    晴明还未答话,跟在晴明身边的妖琴师就失手在他那张琴上划下了重重的一音,尖锐的琴声刺耳无比。

    晴明微微皱起眉,转头温声询问道:“怎么了妖琴师?方才胧车的速度太快了,让你不舒服了吗?”

    在晴明看不到的地方, 般若脸扭曲了下, 暗暗磨了磨牙根。

    妖琴师听到了晴明的问话,表情缓和了下道:“无妨, 只是有点晕罢了, 没什么要紧的。”

    “原来如此,没有大碍就好。”晴明点了点头, 顺势就把手从般若的怀里抽了出来。

    万年竹扫了眼般若不甘心的表情,再看了下表情明显有些愉悦的妖琴师,唇角抿了抿。

    “一目连, 麻烦你带着九命猫、般若、万年竹还有妖琴师他们先去熟悉下庭院的新环境。”晴明这么对一目连吩咐道。

    一目连点点头,回道:“我知道了晴明大人,你先去忙吧。”他的声音得又轻又柔,那体贴无比的模样让般若在心里咂舌。更别提被晾在一边谁都没怎么搭理的夜叉了,他的脸已经黑得不行了,一副怒气冲冲的样子。

    九命猫早就察觉到气氛的不对劲,早早地溜到了一边的回廊上看着这边仿佛修罗场一样的场面。

    般若、妖琴师、夜叉、一目连,再加上个把玩着竹笛的万年竹,他们或远或近地围绕着晴明,视线都落在晴明的身上,每一个都希望晴明将目光落在自己身上更久点。

    九命猫舌头舔了舔自己的爪子,再一次庆幸自己有先见之明提前脱离了战场。那一处虽然没有动刀动枪,但是他们眼神之间的交锋就像是黑云遮天时的电闪雷鸣,带着让人心惊肉跳的磅礴轰鸣。

    雄性啊啧啧啧……九命猫在心里感慨着,并不算趟这趟浑水。

    晴明面色不变,提步就从那雄性的包围圈中走了出来:“有什么问题的话你们可以去询问姑获鸟,她会帮助你们的。那么,我就先回房了。”

    围着晴明的式神们自然无法阻止,只好眼睁睁地看着晴明逐渐远去的背影在回廊尽头消失。

    晴明在快要抵达自己房间时,却发现了一个黑影正坐在他的房门口。

    晴明微微挑眉,走近定睛一看,那端正坐在晴明房门口,背生黑色羽翼,不是大天狗又是谁?大天狗正闭着那双冰蓝色眸子,纯白的衣摆随风飘荡着,那上面飘满了花瓣和落叶,像是在此处等待了许久一样。

    晴明不合时宜地将这位威风凛凛的大妖怪,和在庭院门口等待着他回来的白重合了。

    “大天狗?你为何会在这里?是有什么事情要找我吗?”晴明收敛回发散的思绪,他弯下腰,伸出手轻轻拍了拍大天狗的肩膀,温声询问道。

    大天狗像是如梦方醒,猛地睁开了眼睛,怔怔地看着晴明近在咫尺、面含担忧的脸庞。

    “晴明大人……!”大天狗连忙站了起来,将自己身上飘落的花叶拍落在地,理了理因为久坐而有些发皱的衣襟,朝晴明行了一礼恭谨道:“晴明大人,吾只是想在此处等候您归来罢了,并无什么要事。”

    大天狗顿了顿,抬起那双冰蓝色的眼瞳,有些试探地问道:“莫非吾这样做有何不妥吗?”

    “啊,并不是这样。”晴明失笑,他的目光扫过了回廊外生长得茂盛茂密的树丛,才将视线再度落回到大天狗的身上。

    “只是你不必在此处等我的,犬神和姑获鸟他们没有和你吗?”晴明奇怪地问道。

    “……”大天狗没有话,实际上犬神和姑获鸟的确有告诉过他,晴明大人有要事出了庭院,而且也并不需要某位式神一直守在他的身边。

    但是大天狗知晓,在这座职责已经分工好的庭院里,大天狗想要和晴明建立起更紧密、更信任的关系的话,只是简单的听从命令可做不到。

    大天狗并不想要阴阳师和式神这一个简单的关系,他想要成为晴明最信任的式神,离晴明位置最近的式神,能够被晴明委以重任的式神,以及——大天狗也想成为庭院里最理解晴明的式神。

    不过这一个的私心自然无法和晴明大人明。

    大天狗在这段时间里,早就将庭院里的势力分布摸了个透——当然这里面也有部分功劳要归功于对大天狗崇敬不已的鸦天狗就是了。

    “姑获鸟和犬神不是,吾可以选择自己心仪的房间吗?吾选择了这一块而已。”大天狗看着晴明,俊秀的面容上露出了一抹足以让普通人类面红心跳的温柔微笑。

    “莫非不可以吗?”大天狗问道。

    “原来如此,难怪我那边的树丛和往常不一样呢。”晴明失笑,他轻轻地摇了摇头,半是调笑道:“虽然不是不可以……但是让你住在树丛中未免太失礼了。我可不想被世人们安倍晴明苛待他的式神呢。”

    “那是世人愚昧,不懂得晴明大人的大义和美好之处!只懂得背后嚼舌根,那种无知之人连晴明的袍角都别想触摸得到!”大天狗皱起了眉头,背后的羽翼也因为主人的情绪变动而扬了起来,落下了几片黑色的羽毛。

    “但撇开不谈,我的确不能让大天狗你住在那里。”晴明温和而不容许拒绝地开口道。

    “我很感谢你想要守护我的心意,不过我并不喜欢这样,所以还是去寻找另一个更舒适的房间住下吧。好吗,大天狗?”

    大天狗抿了抿唇,感受到了一股从心底蔓延开来泛酸的挫败感。他失落地眨了眨眼,点了点头,声音低沉地回复道:“好的,晴明大人……吾知晓了。”

    看着背后的黑翼都失落得拖落在地上的大天狗,晴明想了想,开口问道:“等会我要去把雪女接回庭院,你愿意和我一起去吗?”

    大天狗听闻此言,俊秀的面容猛地展开了一个笑容:“请晴明大人务必带上吾!所有的危险吾大天狗定会为你斩落!”

    大天狗信誓旦旦的模样让晴明忍不住翘起了唇角,晴明伸出手在大天狗那柔软得犹如绸缎一样的发上轻轻摸了摸:“那就多谢了。”

    晴明向来不愿在式神对自己的好意上泼冷水,他在回廊上朝天空看了看,算了算时间:“那么现在该出发了,来得及的话,可以带着雪女一起回来吃晚饭呢。”

    “现在就出发吗?那么吾去为您准备出行的车具——”大天狗着就像挥舞着翅膀往胧车和论入道休憩的地方飞去,却被晴明阻止了。

    “不需要它们,我们用走路就行了。”

    大天狗微愕:“走路?”

    “是啊。”晴明轻松地回复道。他示意大天狗跟着自己,然后转身走进了他的房间内。

    大天狗依言照做,他还是来到庭院后第一次进入到晴明的房间内。

    他四处环顾了下,发现晴明的房间和他本人一样素雅洁净,饰物和摆设都恰到好处,而更为注目的则是那占据了整整一面的巨大书架。那上面摆满了各类卷轴,大天狗粗粗一看,那上面既有竹卷,也有唐纸制成的蓝皮书本。

    大天狗暗道一声不愧是晴明大人,藏书可真多。

    但不太了解人类世界的大天狗自然不知晓,即便是天皇的藏书阁,里面的藏书或许还不如晴明的书库多。

    这些卷轴书籍有的是晴明从阴阳寮内摘抄副本得来的,有的是他人所赠,而还有些,则是某些居住在高天原或者是异界的神明们相送的。

    晴明自然不知道大天狗心里想着什么,他带着大天狗来到了被屏风隔开的另一边,在屏风后伫立着一扇绘有白雪皑皑的纸门,晴明将手扣在门扉上,没有怎么用力,轻轻一拉们便应声而开。

    “哗啦——”

    随着那扇门扉的拉开,大天狗下意识地闭上了眼睛,避开忽然出现的刺眼夺目的白光。

    等到大天狗再度睁开眼睛时,扑面而来冷风扬起了他的袍角,而那双微微瞠大的蓝色眼瞳中,则倒映着眼前一片雪白的群山。

    一扇门扉隔开了两个世界,一边是温暖舒适书香缭绕的居房,另一边是寒风凛冽、风雪呼啸的皑皑雪山。

    “走吧,该去找雪女了。”晴明偏头对大天狗这么道了一句,然后提步迈出了这扇门。

    作者有话要:  大天狗守在晴明门口,想要做什么呢——

    大天狗其实很心机的【。】

    以及之前的那篇妖琴师X晴明的,我放在这里了,是全日文的,如果看不懂的话前几章有渣翻。

    いつも通りに博雅と都の鬼退治を終え、土埃に汚れた身体を湯あみで清め、後の対策を酒を交えて博雅と話していれば夜もすっかり更けていた。程よく酔った所で博雅が立ち上がり、明日も頼まれている鬼退治に備えて寝ると言う。最近はヤマタノオロチのせいで増幅する悪鬼のせいで連日の疲れが溜まっていた私は引き留める事もなく、酒盛りの片付けは式に任せ、博雅の後に続いた。

    庭園が伺える廊下を音もなく歩く。

    先日までは幽玄を体現したかのように見事だった庭園はヤマタノオロチの騒動で所々傷跡を残しており、自慢の庭園だったが故に残念でならない。だが、都の事や今の状況を考えれば庭園の傷など考えている暇もなく、缑鳏握嬉猡馓饯欷胜そ瘛⒂嗨姢颏工胗嘣¥工椁胜盲俊¥膜皮峡F側で座っていた彼女の姿も今はない。私の知らない所で世界は少しずつ狂っていく。神楽と共に犬神に掛けられた冤罪を解きに行ったことが今ではすっかり思い出の中だ。

    (過去に耽るのは連日の疲れが溜まっているのかもしれないな……)

    内心で自嘲しながら廊下を進めば、不意に、微かに琴の音が耳に届いた。

    視線を巡らせど弾いている主の姿はないが、音が出る方は大体分かる。

    僅かに聞こえてくる端々でも奏者の手腕は窺え、嫌がられる事は覚悟で音が鳴る方へ足を向けた。

    「妖琴師、か」

    かくして、白い着物に身を包んだ彼はいた。樹皮が所々剝げてしまった桜の巨木の根元に座り込み、目を閉じて琴を弾いている姿こそ音の正体だろう。姿が見えるギリギリの位置で足を止め、なるべく呼吸さえ殺してその音に耳を傾ける。静寂を好む彼の鬼は少しの邪念も許さず、興が逸れて失うにはこの音は惜しい。相手は私が来ている事には気づいているだろうが、弾き手を止めない。まだ、許されている距離である。

    人を狂わせる音の持ち主である妖琴師が来たのはついこないだの事だ。

    都の探索で鬼退治に勤しんでいれば、突如として現れた荷を背負った紙人形が落としていった霊符で偶然呼べたのが彼だった。呼んだすぐに「煩いぞ」と言われ、話す間もなく「このような喧しい場所に呼ぶなど…」と不満を言われて去ってしまい、私自身も依頼でてんてこ舞いになっていたのでこうして姿を見るのも久しぶりだった。一度偶然見かけた時には、近寄った白と神楽が純粋に賛辞を呈していた姿もあったが、煩わしそうに眉を潜めていた所を見るに相当気難しいのだろう。

    余韻を残して、一曲が去る。

    本来ならばすぐに立ち去った方が良いのかもしれないが、この浮世離れした想いをすぐに手放すのは惜しい。目を閉じて、そっと浸っていればいつの間にそこにいたのだろうか。目を開ければ白い着物が目に入り、私は僅かに目を見開く。

    「いつまでそうしているつもりだ」

    低い声音で問われ、暫くしたのちに口を開く。

    「なに、あまりに見事なものだったのでな」

    「ほう。君にあの調べが理解出来たとでも?」

    挑発的な台詞は地なのか、それともハッタリか。私は目を細め、持っていた扇子で手を叩いた。

    「人を狂わすというその噂、確かに納得せざる得なかった」

    純粋に賛辞を込めて言うが、気難しい彼はスッと冷めた目つきで私を見やる。興ざめしたと言わんばかりの表情で私を見下ろす。

    「やはり、到底出来ていない。所詮はその程度というものか」

    言うや否や、彼は重たい琴を物ともせず踵を返し、これ以上はないと暗に告げている。

    「心労が募った心で私の調べが理解できると?」

    「なるほど。それは失礼な事を言った。では、明日は純粋にその音を楽しむ為にここに来よう」

    「ふん。口先だけで出来るとは到底思えないがな」

    どうやら気休めに聴いていたのが気に障ったらしい。音律の道を極めた者にとって、何かを紛らわせるために聴かれたのであっては無粋にしかならないのだろう。失礼を詫びるように彼が立ち去るまでその場でじっとしていれば、彼は一切こちらに振り返る事もなく立ち去って行った。

    次の夜はいるかどうかも分からない妖琴師の琴の音を聴く為だけに桜の巨木の元へ訪れた。約束も交わしていなければ、気難しい彼なので来るどうかもわからない。期待半分に訪れた場所に、かくして妖琴師はいた。前の夜と同じ位置に座し、私も昨日と同じ位置に佇む。息を殺して、世界が妖琴師の奏でる音だけになったかのような錯覚に囚われ、目も眩むような時間に浸る。その時だけは何もかもを忘れて、じっと彼の音だけに身を任せた。そうして余韻に浸っていればいつの間にか妖琴師の姿はなく、私は誰もいない桜の木に向かって「お見事」と笑みを向ける。

    そんな夜が連日続き、最近はあれほど感じていた疲れも感じなくなっていた。

    相変わらず蔓延る悪鬼が絶える事はないが、夜にあの音を聴くだけでその日にあった出来事がぼんやりとどうでも良くなってしまうのだ。たとえ、その日の依頼がどのようにキツいものであったとしても、妖琴師の琴を聴けば彼の音しか頭に入って来なくなる。

    ある日、程よく一軍が育ってきた事もあって育成途中の二軍をメインに探索に出ていると何やら神楽が心配そうな顔で私の袖を引っ張ってくる。

    「どうしたの?晴明。どこか具合でも悪いの?」

    「いや、そういうわけではないが……」

    「最近、ぼんやりとしている事が多いからちょっと心配。本当に大丈夫?」

    上目遣いに見られ、私は安心させるように神楽の頭を撫でてやる。言われてみれば、最近は鬼退治の途中であろうと意識が集中しきれていない時があり、博雅には「手ぇ抜いてんじゃねぇぞ」と言を言われたのもあった。

    「すまない、心配をかけた」

    そう言えば、神楽は少しだけ安心したように笑ってくれる。遊びではないのだ。ここはきちんと集中しなければならないだろう。そう意気込んでいると、先程まで悪鬼と戦っていたはずの以津真天がいつもの淡泊な表情でこちらに近寄って来る。

    「彼の御魂、なにを付けたの?」

    「何か問題でもあったのか?」

    「いいえ。でも、私のものとは違うから。敵が自分の味方を攻撃しているのがおかしくて」

    以津真天が向けた視線の先に自身も視線を向ければ、そこには夜に見慣れた琴を弾く姿がある。妖琴師の音を聴いた途端に悪鬼たちは頭をグラグラと揺らし、あまつさえ味方のはずの悪鬼に猛威を振るっている姿がある。

    「あぁ、たまには違ったものを与えてみるのも良いと思ってな。彼には魍妖を与えてみたんだ」

    「そう」

    「なかなか、あれはえげつないな」

    苦笑交じりに言えば、以津真天はそれ以上何も言わなかった。

    連日連夜桜の木の下へ通い続け、博雅からの酒盛りの誘いもそっちのけだったのは事実だ。加えて、夜のほとんどは妖琴師の元へ訪れているようになり、日を重ねる毎に時間が伸びている気がする。

    「おい、晴明!最近のお前の腑抜け具合はどうにかならないのか!」

    「……そう言われてもな」

    「仕事の最中でも気を抜いたようにぼんやりしやがって。そんな様子じゃ、いつか鬼に食われるぞ」

    「そのような失態をするわけがないだろう。……だが、忠告感謝する」

    不機嫌そうな博雅に言われた事には覚えがあった。前までは都の為に尽力を尽くす事だけを天命にして動いていたというのに、今では夜を待つ事ばかりを気にしている節があった。迕鳏问陇馔欷薄⑴既灰姢膜堡看筇旃筏斡鸶遣┭扭Xいでいようと、それが何なのか一瞬思い出せないくらいである。原因と言えば、妖琴師と過ごす夜しか思い付かず、もう桜の木に行くのはやめようと心に決める。

    だと言うのに、何故自分は今ここにいるのか。

    気づいたらいつものように桜の木の下に来ており、目の前には琴を構える妖琴師の姿があった。

    我に返ったのなら踵を返すべきだろう。そう思い、足を動かせば不機嫌そうな声が引き止める。

    「何処へ行くつもりだ」

    前までは「早く去れ」と言っていた口が言う言葉には到底思えない。

    「明日は早いのでな。今日は早々に退散するつもりだ」

    「ほう。ここまで来ておいて今更そう言うのか」

    「元々来るつもりがなかった。何故今ここに自分がいるのかも不思議だ」

    素直にそう言えば、妖琴師は目を細めて笑う。

    「ならば、早く去るが良い。囀る虫に聴かせる音はここにはない」

    「手厳しいな。では、そうしよう。……あぁ、お前には申し訳ないが、暫くはここには来ないつもりだ」

    有言実行をもとにキッパリ宣言すれば、彼は何故かおかしそうに笑う。

    「いいや、君は来るさ。私が頼まずとも、君は来るだろう。明日の君は黙ってそこに佇み、自分の愚かさに嘆く事になる」

    「……」

    「どうした?去るのではなかったのか?何故いつまでもそこにいる」

    無言で佇めば、嘲笑混じりに言われてハッと我に返る。暫くはここには来ないと心に決めながら、久しぶりに何の子守唄もないままに寝所に潜った。しかしながら、朝が来るまで目は覚めたままで、意識はハッキリとしているものの、身体の疲労は昨日までが嘘のように溜まっていた。重たい身体を引きずりながら、博雅と神楽を連れて都の鬼退治へと出向く。以津真天に二軍の引率を頼み、自身は術を使って周囲を探る。そんな中、不意に袖を引っ張られ、私は背後を振り返った。

    「晴明、今日は博雅に任せて帰った方が良いと思うの」

    「神楽……私は」

    「式達も晴明が体調が悪い事を見抜いてる。そんな状態で戦っていたら、怪我をしてしまうかもしれないでしょ?」

    そう言われて式達に向ければ、戦いながらも以津真天が静かな目でこちらを見ているのが分かった。見抜かれているというのは本当らしい。隣にいる妖琴師は一切こちらを振り返らない。

    「……すまない。今日は先に帰らせて貰うとしよう」

    「うん。そうして」

    不意に、妖琴師の琴の音が聞こえてくる。音を聴いた混乱した悪鬼は味方を傷つけながら、以津真天が最期のトドメをっている姿があった。そんな事よりも、先程微かに聞こえた音の方が気になって仕方がない。これではいけないとかぶりを振り、博雅に事情を話にいく。

    しかしどうしてか、先に帰って寝所で寝ていたはずなのに、私はいつの間にかあの桜の木の下にいた。まだ昼間なので妖琴師の姿はない。そこにホッとしながら、早く去ろうとするのに足が全く言う事をきかなかった。鉛にでもなったかのようにその場に佇み、ぼんやりと桜の木を見上げる。

    「――だから言っただろう?君は来ると」

    背後から聞こえてきた馴染みある声に私は振り返らない。否、振り返れなかった。

    「そこに跪いて乞うが良い。聴きたいのだろう?私の調べを」

    それまで動かなかった足はまるで嘘のように動いた。言われた通りに膝を折り、桜の木を見つめたまま息を殺してあの音が奏でられるのを待っている。

    「聴かせてやろう、思う存分。今度は立ち去るなどと言えぬように、その魂に刻んでやる」

    いつもの位置に、妖琴師が座る。優雅に袖を翻し、見せつけるように琴を構えて。僅かに見えた御魂の発動に、私は息を飲むしかない。

    「ほら、近くに寄れ」

    聞いてはならない。行ってはならない。そう思うのに、身体は自然と前に進む。

    人を狂わせる音律の持ち主。それに加えて、人を狂わせる効果のある御魂を混ぜれば、一体どれほどの効果となるだろうか。それを今から味わうのだと思うと、ゾッとした。

    「捕まえた」